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製薬企業研究員が教える「実験結果を量産するために考えるべき 7 つのポイント」

研究を始めたばかりのときは、思ったように実験結果が得られず、努力と成果が見合わないことが多々あります。

そのような辛さの中で得られたポジティブデータは非常に嬉しいし、初めてその瞬間を経験した時のことを私は未だに覚えています。

そのような経験が忘れられないことも、研究職を志した一つの大きな理由です。

一方で、研究のプロとして仕事する以上、必要な実験結果を出し続けなければなりません

同様に、大学生と大学院生でも一定以上の結果を出せなければ学位論文は勿論のこと、学会発表のチャンスも巡ってこないかもしれません。

私自身、大学院時代の研究がうまく行き出したのは、周りの学生と比較して遅く、苦労してきた経験があります。

この記事を読んで下さる方にはなるべく私のような遠回りをしないように、ポジティブデータを出し続けるために私が考えている7つのポイントをシェアしたいと思います。

 

この記事の対象者

  • 研究成果が思うように得られず、辛い思いをしている大学生
  • 実験量とポジティブデータが見合わず、困っている大学院生

この記事を読んで分かること

研究成果を出し続けるためには「適切な実験計画」が全てである。

 

実験の必要性とその目的を明確にする

当たり前のことだと思われるかもしれませんが、実験量の割に研究が前に進まない時に意識するべきポイントだと思います。

研究にはビジョンとも言うべき、大きな目的があると思います。(例えば、免疫応答における分子 A の機能解明)

あなたが教授や上司から割り当てられたプロジェクトも、そのビジョンの一部のはずです。(例えば、免疫細胞 X における分子 A の機能解明)

あなたはその分担プロジェクトのゴールを目指して、日々の実験を行っていると思います。

研究を成果として世の中に報告するためには「ストーリー」が必要です。

例えば、よくある研究発表や論文の流れとして、以下のようなものがあります。

  1. 研究テーマを進めるに至った背景
  2. 分子 A は腫瘍に対する免疫応答を増加させる(動物モデルの病態における役割)
  3. 分子 A は免疫細胞Xを活性化させる(細胞機能における役割)
  4. 分子 A はシグナル伝達分子Bの活性化を介して免疫細胞 X を活性化させる(分子機構の解明)
  5. 免疫細胞 X における分子 A とシグナル伝達分子 B は腫瘍に対する免疫応答を亢進させる(病態ー細胞機能ー分子機能の統合)
  6. ヒトの腫瘍患者で分子 A の機能・発現が減少している(動物モデルーヒトの知見の統合)
  7. 今後の展望

このような研究の流れにしようと考えた場合、2~6 は著者の主張であり、これを聴衆や読者に納得させるための実験データが必要になります。

従って、実験は研究のストーリーに沿った実験でなければ、遠回りになってしまうことになります。

ストーリーに沿わない実験も長い目で見れば無駄にならないと思いますが、研究成果を最短距離で出し続けるためにはこの意識が必要です。

そのため、実験を計画する前に、

  • この実験で分かることは何か?(本当にその実験がストーリーの組み立てに必要か?)
  • 求める表現型や現象が捉えられることで、次の研究方針が決まるか?

を冷静に考えることが重要です。

適切な研究課題の設定方法や、研究のストーリーの組み立て方を基礎から学びたい方は、全研究者のバイブルである「イシューからはじめよ」の一読をおすすめします。

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」
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仮説を立てる

仮説は実験計画から次の方針の決定に至るまで、実験過程において必要不可欠です。

仮説を立てることで以下のことがスムーズに実行できるようになります

  • 適切な実験のコントロールを置くことができる。
  • 仮説に合う実験データが得られるような条件を設定することができる。
  • 予想外の結果だった時に、何が原因であったかを明確にすることができる。

研究には失敗がつきものですが、「次の行動につながる失敗」をすることが必要です。

このことは、下記の記事でも示したように、精神衛生的にも重要なことです。

仮説とそれぞれの項目の関係性は順を追って説明していきます。

「仮説がうまく立てられない」、「どうやって仮説を考えればよいか理解できない」という方は「仮説思考」を読むことをおすすめします。

 

仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法
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 私自身、「イシューからはじめよ」と「仮説思考」を読み終えたあたりから、急激に実験の PDCA cycle がうまく回ることを実感できました。

「研究は急がば回れ」だと私は日々思うことを大事にしていますが、実験量と成果が見合わないで苦しんでいる学生こそ、まずはこれらの書籍を読んでみてください。

 

参考となる実験の情報を集める

殆どの実験の場合、前例が全く何もない状況からスタートする事は少ないと思います。

例えば、研究例における「免疫細胞 X における分子 A の機能解明(動物モデルの病態における役割) 」のパートを考えてみましょう。

先行研究を探してみると、腫瘍モデルの実験でよく使用されている実験方法や実験材料が必ずあると思います。

そのような情報は、論文や学会発表、研究室の先輩の実験ノートに加え、学内の類似した研究を行っているラボの人とのディスカッションの中から得られます

しかし、情報を集めてみると先行研究によって、実験プロトコルの流れは大体同じだけれど、実験材料の濃度や処理時間、試薬の販売会社や製品番号が少しずつ違うことに気が付きます。

注意すべき点は、論文や学会発表に示されるデータは、発表者が示したい現象がうまく観察された実験条件のみです。

従って、あなたが示したい実験データを得るためには、これらの情報から実験条件(条件検討すべき項目とそのレンジ)を決め、あなたの観察したい現象が見やすいプロトコルを独自に確立していく必要があります

その条件を考案する際に、以下の項目を Excel などを使用して表に纏めるとプロトコルの作成のときだけでなく、実験後に考察する際にも分かりやすいと思います。

  • 論文・学会発表名(Menekiboy, et al. Immune Journal. 2024)
  • 実験プロトコルの概要: 実験材料の量や濃度、処理時間 (腫瘍細胞株B 1x10^6 → B6 マウスへ i.v. 投与 → 3 週間後に肝臓回収)
  • 実験結果の端的なまとめ (分子 C の欠損により腫瘍経減少、免疫細胞数増加)

 

実験の適切なコントロールを考える

実験で適切にコントロールを置くことができれば、たとえ今回の実験がうまくワークしなくても、次回に繋がる知見を得ることができます。

裏を返せば、コントロールが置けてない実験が失敗した場合、何が原因でうまくいかなかったのかを知ることが困難になります。

研究例における「3. 分子Aは免疫細胞Xを活性化させる」という現象を証明しようとした場合、最初の実験から「分子 A の刺激剤」のみで実験をすることはおすすめしません

なぜならば、もし刺激がうまく入らなかった場合、以下のように多くの仮説が考えられます。

  • 刺激方法が間違っているのか?
  • 刺激した細胞の質が良くないのか?
  • そもそも分子Aはこの細胞を活性化させられないのか?

こういった状況では、次回の実験でどの仮説から手を付けていけばよいか、検討が付かなくなってしまいます。

この実験の場合、ネガティブコントロールとして無刺激のサンプル、ポジティブコントロールとして免疫細胞 X を活性化させる事がよく知られている刺激剤」を置くことが少なくとも初回の実験では必要となります。

このように、適切なコントロールが置かれている実験であれば、ポジティブコントロールすらワークしなかった場合は「細胞の状態が実験に適していない可能性」が示唆されます。

逆に、ポジティブコントロールがワークしたのに分子Aの機能が見えなかった場合は、「刺激条件が悪い」もしくは「免疫細胞 X ではそもそも期待される表現形が見えない(仮説が間違っていた)」と考察することができます。

このように、同じうまく行かなかった実験でも適切にコントロールが置けていれば、次の一手を決めるに足るデータを取得したことになります。

ここまでの話からもお気づきかもしれませんが、ネガティブコントロールよりもポジティブコントロールを置くことが重要です。

置くべきポジティブコントロールは前述のように先行研究を纏めて行く中で、報告数が多くかつデータが毎回綺麗に出ている試薬や刺激方法を参考にすることが良いと思います。

コントロールを適切に置くことができるようになったら研究者として一人前と言われていますが、意識して訓練を続けていけば必ずできるようになります。

 

仮説を検証しやすい実験条件を検討する

生物学的な実験は、分子機能を増強もしくは減弱(欠損)させることで、表現型に違いが出るか否かを検証する比較実験が主です。

しかし、証明したい現象がどのような実験条件でも観察できるということは殆どありません

つまり、観察したい現象には常に適切な実験条件が存在すると言うことになります。

その適切な条件を見出すために必要なことが予備実験になります。

この予備実験で条件検討を行う際に重要となるのは、仮説に沿って見たい現象を見やすくできるような条件を想像することです。

免疫細胞の機能増加を観察したい場合:未活性化状態の細胞に対して刺激剤を加える。(機能増加が観察しやすい)

免疫細胞の機能減少を観察したい場合:程よく活性化させた状態の細胞に対して阻害剤を加える。(機能減少が観察しやすい)

研究例における「3. 分子Aは免疫細胞Xを活性化させる」ことを示す場合、分子Aの刺激剤の濃度(強度)が1つの検討項目になります。

その濃度の検討の仕方(条件の振り方)を考える際のヒントになるのが、先行研究の情報です。

先行研究で使用されている刺激剤の濃度が 1 ~ 10 μg/mL であるならば、初回の実験では、0.3, 1, 3, 10, 30 μg/mL などと広めに条件を振り、感覚を掴むのが良いです。

その後、活性化がきれいに見えそうな条件が絞り込めそうであれば、レンジを狭めつつ、表現系の再現を取ることが望ましいです。

こういった条件検討の場合、変数はできれば1つずつ、多くても2変数について、最低 n = 2 以上で検討することで感覚を掴むと良いと思います。

一方で、あまりにも条件検討がうまくいかない時は、「仮説が違かった」と諦める前に、一度大きく実験条件を変えて検証してみることも考慮に入れるべきかもしれません。

 

データが得られたら考察と次の一手を考える

前述のように、仮説と実験のコントロールが適切に置けている実験であれば、実験内容がどうであれ、次の一手を決めることができます。

しかし、条件検討をする中で、説明がつかない予想外のデータが得られる事が多々あります

そういった場合には、自分だけでデータとにらめっこして考察できるポイントにも限りがあると思いますので、先生や先輩と議論してみたり、論文で類似する現象が報告されていないか調べてみると次の方針を決めることに繋がると思います。

特に同じ研究室であれば、研究内容が重なっていることも多いと思うので、トラブルシューティングの際に有益な情報が得やすいと思います。

先輩や先生と議論する際に重要なことは、「自分の意見をしっかり持った上で相談する」ことです。

自分の考え方との違いを認識できるようになることで、考え方の幅が広がり、研究者として成長することができます。

 

別の切り口で現象の再現性を取れるか考える

取得したデータを外部に発表するためには、少なくとも2回以上、同じ実験条件で同様の結果が得られるという「再現性」を確認する必要があります。

しかし、実験というのはどうしてもその性質上、生物学的現象の一部を切り取って観察するため、それぞれの実験でしか認められない(再現できない)現象である可能性が否定できません。

従って、観察された現象の裏どりをするために別の実験方法で同じ現象の再現性を確認できると、論理的に「硬いデータ」となることは言うまでもないでしょう。

これは、トップジャーナルに掲載されるような質の高い研究程、徹底して裏取りまで含めて証明がなされていると日々痛感しています。

 

最後に

いかがでしたでしょうか?

ここでお話した、ポジティブデータを出すための全てのポイントは、実験自体ではなく、実験デザインの段階にあることがお分かりいただけたでしょうか。

最初から全てを理解し、実務レベルでこれらのポイントを落とし込んでいくことは難しいかもしれません。

しかし、何も取り柄のなかった私ですら、時間はかかりましたが最終的にできるようになりました。

皆さんの研究のサポートに少しでもなっていれば、非常に嬉しく思います。

 

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